asagi diary

浅葱色が好きな筆者が、夢中になる絵本や小説のこと、猫のことを発信する雑記ブログ

新ジャンル!音楽ミステリー。中山七里3選

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 音楽をこよなく愛する人には、とっておきの本です。これを読むと、ピアノを弾きたくてうずうずします。また、作品の小さなタイトルのつけ方も音楽にちなんで、例えば「嵐のように狂暴に~」とか「生き生きと高らかに響かせて~」と、素敵なタイトルなんです。

 ピアノを弾くことを文章にするのは難しいと思います。ピアニストの思いや作曲家の思いを織り交ぜて、クレッシェンドになる時の表現など作者は表現が非常に上手いんです。共感する所がたくさんあります。また、弾けなくても弾いている気分にさせてくれて、嬉しくなります。例えば、何かに追われるように焦燥と不安が旋律を加速させていく。旋律を徐々に下降させ続け、そして最後の一音を放つ、など。ピアニストになった気分になれる、音楽ミステリー。これを読まないと損をしますよ。

 

1.さよならドビュッシー

 香月遥は、ピアニストを目指す16歳。英雄ポロネーズのレッスンから始まります。そして衝撃的な幕開けには、驚かされました。

 遥と祖父、従姉妹の片桐ルキアが火事に遭い、遥だけが生き残ります。大けが大やけどをしたものの、驚異的な回復力を見せます。岬洋介と運命的な出会いを果たし、コンクールを目指します。

 そんな中、遥の松葉づえや階段に細工が施されたりと、奇妙な事件が次々と起こり、ついには大きな事件まで起きてしまいます。祖父の資産が狙いなのでしょうか。まるで「月の光」の美しい旋律が、聴こえてくるかのようです。

 犯人は、叔父なのか、介護士なのか果たして…。

 犯人や動機はなんだろうかと頭を巡らせ、終始ドキドキワクワクがとまりません。どんでん返しのまさかの衝撃的なラスト。これを見逃してはいけませんよ。

 第8回「このミス」大賞受賞作品であり、デビュー作。

 

2.いつまでもショパン

 世界的に有名なショパンコンクールを舞台に、岬洋介が遭遇する奇妙な事件の数々。プレリュードでは、大統領を乗せた飛行機が墜落する場面から始まります。最初から目が離せません。そして、戦争と音楽は身近なものだと痛感した作品でもあります。音楽の力ってすごいです。 

 ポーランド期待の星ヤンも、ピアニストを目指す一人です。公園で知り合った女の子のマリー。そして岬とマリーの約束には、心があたたまります。マリーはテロで亡くなってしまったのですが、身近な人の死を目の当たりにする中での、コンクール出場をする岬の想い、ヤンの想いは涙なしには読めません。

 この岬洋介という人に、難聴を患いながらも、ピアノと真摯に向き合う所に惹かれます。まるで自分がコンクールに出場しているかのような、錯覚を覚えます。読み進めていると緊張しながら指に思わず力が入っている、私がいます。

 コンサートホールでの事件。最初に確認したのは何と、盲人の榊場隆平。「ピアニスト」というあだ名と、アラブ人ではないという事だけが犯人の手掛かりです。コンクール中に爆発が近隣である中での開催。冷静な洞察力を持つ岬がするちょっとした動作にも、意味が込められているのです。

 ラストは目を見張るものがあります。益々ピアノやショパンが好きになりました。これまでピアノに興味を持たなかった人にも、ぜひ読んでほしいです。見方が変わりますよ。

 

3.おやすみラフマニノフ

 ドビュッシーに続く第二弾。

 厳重な管理の中、突如消えた2億円のチェロ・ストラディバリウス。プロになるため練習に励んでいた音大生で、第一ヴァイオリン奏者の晶を主人公に、話が展開していきます。オーケストラの一人ひとりの心の動きや、音楽の向き合い方など事細かに描かれています。学長柘植彰良は、音大の学長であると共にラフマニノフ弾きと呼ばれる名ピアニストです。この学長がピアノで参加する定期演奏会が目玉で、年に一度柘植の演奏を堪能できるプラチナ・チケットとなっています。演奏メンバーは今年に限ってオーディションになりました。学費の足りない僕は、何としてもメンバーになることで、準奨学生という扱いを受けて授業料免除されたいのです。

 柘植の孫である初音や、サラブレッドの入間裕人、城戸晶(ぼく)、下諏訪美鈴との人間関係や岬先生との出会いがよくわかります。

 次には、柘植が弾くはずのピアノが水びだしになる事件が発生します。それぞれの思いが交差します。事件が起こるたびに、オーケストラのまとまりがなくなっていきます。そして病魔におかされる演奏者の一人は一体。

 突然の集中豪雨の際、避難した岬と晶の演奏シーンには、いつの間にか私の頬が濡れていました。メッセージ性を秘めたこの作品。

 あなたには、この緻密なトリックを見破ることはできますか。ミステリー好きにはたまらない、音楽好きでなくてもこの本は必見です。

 

まとめ

 作者が全力で音楽と向き合っていることや、音楽をこよなく愛することがよくわかります。音楽好き、ピアノ好きの私にとっては読んでいて楽しくて仕方ありません。そして、作者の音楽の表現が素晴らしいのが胸にしみます。そして、必ず読んだ後はピアノに私は向かうのです。ウズウズして弾きたくなるのです。そして、弾いたことのない本に出てきた曲を試したくなるのです。音楽にミステリーが重なって、本当に面白いですし岬洋介という登場人物に惹かれます。ぜひ、音楽とミステリーが好きな方には読んでほしい3冊です。