asagi diary

浅葱色が好きな筆者が、夢中になる絵本や小説のこと、猫のことを発信する雑記ブログ

小野寺史宜さんの小説「ひと」を読んで。

小野寺史宜さんの小説「ひと」を読んで。

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 生きていくっていうこと、お金を稼いで生活していく事がどんなに大変であるかがひしひしと伝わってくるこの作品。

 主人公を応援したくなります。

 

 砂町銀座の惣菜屋「おかずの田野倉」が舞台です。ここはテレビでも紹介されるほどの有名店で、食べ歩きにはもってこいのコロッケやハムカツ、カニクリームコロッケなどを売っています。

 

 主人公の柏木聖輔は、20歳。鳥取出身で、高校の時に父が交通事故で他界。大学進学で東京に出てきて、大学在学中に鳥取にいる母が他界してしまいます。

 兄弟もおらず、身寄りのない一人きりになってしまいます。

 

 母が他界し、大学を中退しました。

 おなかがすいていてもう20時間、何も食べていないけれども財布の中には55円しか入っていません。

 目の前の54円のコロッケを買おうとしていたところ、他のお客に先を越されてコロッケを買えませんでした。

 15分後にしか揚がりません。砂町銀座のコロッケ屋の店主督次さんに事情をきかれ、120円のメンチカツを50円にしてもらいます。

 そこでたまたま電柱の張り紙をみて、ご縁があってアルバイトを始めました。

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 田野倉には、他に奥さんの詩子さん、24歳の稲見映樹さんと37歳の芦沢一美さんが働いています。

 

 先輩の映樹さんは遅刻の常習犯ではるものの、親しみがあって要領が良い人です。詩子さんは、映樹さんをわが子のようにかわいがっています。

 

 聖輔は父親が調理師だったのを思い出し、馴染みがあったのですぐに調理師を思いつきます。実務経験二年を経て調理師免許を取得しようと勉強を始めるのです。

 

 社会人になってからの人とのつながりは、大学でバンドをくんでいたのでその時のバンド仲間とのつながり。

 また、遺産が入ったことを当てにして、鳥取から東京まで出てきてたかってくる親戚のおじさん。

 大学を中退して社会人になり一生懸命生きていく聖輔を見下す人や、助けてくれる人。変わらずに接する人など。

 立場が変わると見下す人っていますよね。でも、その人は見下していることに気づいていない場合もあるんだなと、改めて感じました。つきあう人は、選ばないといけませんね。

 

 店主が子供がいないから、あとを継いでくれないかと聖輔に言い、聖輔は即答できませんでした。

 しばらくすると、先輩の映樹さんの彼女が妊娠して結婚することとなります。

 聖輔は、身を引く形でアルバイトをやめる決心をするのです。

 あぁ、なんだか泣けました。

 そうすることで、家族をもった映樹さんが店をつげるようになるのです。

 結局聖輔は、父親と同じ非常に優しい人だったのです。映樹さんや店主、詩子さんのことを想っての行動に、感情が揺さぶられました。

 

 このお話では、「一人の冬」の章でも、聖輔は一人ぼっちでさみしいとか、そういった類の泣き言は一切いいません。

 ただただ、ひたすら前を向いて歩いています。

 そんな聖輔を若いのにすごいな、偉いなと感心しました。

 

 人は、いつ何が起こるかわかりません。そして、前を向いて進んでいく事の大変さや孤独、生きていくということはどういう事なのかを感じました。

 そして、感謝することは大切ですよね。感謝を忘れずに生きていこうと思います。

 

 この小説は、暗くならずに重くならずに書かれているので、さらっと読めて「人」というつながりを色々と考えさせられます。ですから、おススメです。